質の良い方法を知るだけでは、動きは身につかない|量を重ねることで気づけること

仰向けでブリッジを行う利用者の骨盤の動きを、トレーナーが確認しているレッスン風景 ブログ

質の良い方法を選べば、遠回りせずに動きを身につけられる。そう考えたくなるのは自然なことです。

実際に、正しい手順や身体の使い方を知ることは大切です。しかし、良い方法を知ったことと、それを自分の身体で実行できることは、必ずしも同じではありません。

私たちが目にする効率的な方法や優れた技術は、多くの場合、その人がさまざまな経験を重ねた末にたどり着いたものです。その方法を取り入れても、そこへ至るまでの試行錯誤まで省略できるわけではありません。

現在行っている方法の背景に、悩む、話を聞く、試す、比べる、選ぶ、続けるという試行錯誤があることを示した図解

身体の使い方には、何度か動くことで初めて気づけることがあります。

前回との違い。
左右差。
呼吸の変化。
力が入りやすい場所。

こうした反応は、比較できるだけの経験を重ねてこそ見えてきます。

質の良い情報や方法を生かすためにも、まずは自分の身体を動かし、感じる機会が必要です。

今回は、ただ回数をこなすのではなく、動きの質を育てるために必要な「量」について考えていきます。

その方法が、誰にとっても近道になるわけではない

MLB・ロサンゼルス・ドジャースの山本由伸投手は、やり投げに似た動きをトレーニングへ取り入れていることで知られています。

正確には、「フレーチャ」という矢のような形の練習器具を投げる練習です。全身の力を効率よく伝える感覚や、その日のコンディションを確認する目的で行われています。

では、山本投手が取り入れているからといって、すべての投手が同じ練習をすればよいのでしょうか。

そう単純な話ではありません。

山本投手はプロ入り当時、肩や肘の状態に悩み、複数の専門家に話を聞いたと語っています。

その中で、自分の状態と相手の説明を照らし合わせて納得できた方法を選び、実践を重ねてきました。続ける中で少しずつ手応えを確かめ、現在のトレーニングにつながっています。

つまり、やり投げに似た練習は、最初から用意されていた正解ではありません。

自分の身体と向き合い、話を聞き、実際に試しながら選んだ末にたどり着いた一つの手段です。

私たちから見えるのは、山本投手が現在行っている方法です。しかし、その背景には、身体の状態に悩んだ経験や、さまざまな話を聞いた時間、実践しながら手応えを確かめてきた過程があります。

これは、身体の使い方を身につけるときにも同じです。

質の良い解説や優れたテクニックを知ることは、進む方向を考える助けになります。ただし、自分がどこで力み、何が苦手で、どのような動きなら身体に合うのかは、実際に動かなければ分かりません。

良い方法を知ることは、経験を重ねなくてもよい理由にはならないのです。

参考資料

繰り返すことで、自分の動きが見えてくる

身体の使い方を身につけるには、方法を知った後に、実際に動く時間が必要です。

一度動いただけでは、その反応が普段から起きているものなのか、そのとき偶然起きたものなのかを判断しにくいことがあります。

何度か試し、前の動きと比べることで、少しずつ自分の特徴が見えてきます。

前回の記事「ペルビックティルトは、ただ骨盤を動かすだけ?」では、骨盤を前後へ動かしたときに、肩や膝、足裏などに表れる反応を取り上げました。

最初は、骨盤を動かすことだけで精一杯になることもあります。

しかし、同じ動きを繰り返していくと、肩に力が入っていることや、膝まで一緒に動いていること、足裏の体重のかかり方が変わっていることに気づきます。呼吸を止めていたことが、後から分かる場合もあります。

こうした反応は、説明を聞くだけでは自分の感覚になりません。

実際に動き、前の動きと比べる経験があるからこそ、

「先ほどより力が抜けた」
「右側では動きにくい」
「呼吸を続けたほうが動きやすい」

といった違いを捉えられるようになります。

繰り返す目的は、ただ回数を増やすことではありません。

自分の動きを比べるための材料を増やし、その中から違いを見つけることです。

質の良い情報も、自分の身体に起きていることが分かって初めて、どのように使えばよいかを判断できます。

量を重ねることは、質を無視することではなく、質を理解するための土台をつくることなのです。

必要なのは、観察しながら重ねる量

「量を重ねる」と聞くと、決められた回数を最後までやり切ることを想像する方もいると思います。

しかし、何も考えずに同じ動きを繰り返すだけでは、普段の力み方や動きのクセまで、そのまま繰り返すことになります。

疲れて動きを保てなくなった状態で続けても、身体の反応を丁寧に捉えることはできません。

大切なのは、回数そのものではなく、動くたびに身体の反応を確かめることです。

動く。
感じる。
調整する。
もう一度試す。

動く、感じる、調整する、もう一度試すという循環によって動きの質が育つことを示した図解

この循環を重ねることで、少しずつ動きの精度が上がっていきます。

一度目は、うまくできたかを判定するためだけのものではありません。

「肩に力が入った」
「呼吸が止まった」
「右側のほうが動きにくい」

といった情報を集める機会でもあります。

そこで、呼吸を続けてみる。動く範囲を少し小さくする。足裏の感覚を確かめる。

何か一つ調整してからもう一度動くと、先ほどとの違いを比べられます。

すべてを一度に正そうとする必要はありません。

一つの反応に気づき、一つ調整し、もう一度試す。その繰り返しが、自分の身体に合った動き方を見つけることにつながります。

指導を受ける意味も、正解を一度教わることだけではありません。

同じ説明でも、身体に表れる反応は人によって異なります。実際の動きを見ながら、伝え方や動く範囲、意識する場所を調整し、その人に合う方法を一緒に探していくことに意味があります。

量だけでも、質だけでも十分ではありません。

観察と調整を含んだ繰り返しが、動きの質を育てていきます。

痛みや疲労を我慢することが「量」ではない

量を重ねる必要があるからといって、一度に多くの回数を行えばよいわけではありません。

痛みが出ている状態や、疲労によって動きを保てなくなった状態で続けることは、今回お伝えしている「量」とは異なります。

身体の反応を観察できなくなったときは、いったん動きを止め、負荷や動く範囲を見直す必要があります。

厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」でも、運動中に関節や筋肉の強い痛み、いつもと違う強い疲れ、めまいやふらつきなどを感じた場合は、直ちに運動を中止するよう示されています。

大切なのは、その日に限界まで回数を増やすことではありません。

動く範囲を小さくする。
負荷を軽くする。
別の日に改めて試す。
必要に応じて休む。

こうした調整をしながら、実践する機会を積み重ねることも量の一部です。

同じ動きでも、その日の体調や疲労、身体の状態によって感じ方は変わります。

日や条件を変えて試すからこそ、

「今日は動きやすい」
「疲れていると肩に力が入りやすい」

といった新しい反応にも気づけます。

休むことは、積み重ねを止めることではありません。

次に動くときの状態を整え、もう一度丁寧に試すための選択です。

痛みを我慢して続けるのではなく、身体の反応に合わせて方法を変えながら、実践する機会を重ねていく。今回の記事で伝えたい「量」とは、そのような積み重ねです。

痛みが続く場合や、同じ動きで繰り返し痛みが出る場合は、自己判断で運動を続けず、医療機関などの専門家へ相談してください。

参考資料

丁寧な1回を、必要な回数だけ重ねる

質の良い情報や効率的な方法は、進む方向を考える助けになります。

しかし、それだけで自分の身体の特徴が分かり、動きを身につけられるわけではありません。

一方で、ただ回数を増やせばよいわけでもありません。

正しさを求めすぎて動く回数が減れば、自分の反応に気づく機会も減ってしまいます。反対に、身体の反応を確かめずに回数だけを重ねれば、普段の動き方をそのまま繰り返すことになります。

必要なのは、その間にある実践です。

動く。
感じる。
調整する。
そして、もう一度試す。

最初から完全にできなくても、実際に動いたからこそ得られる情報があります。

その経験を次の動きに生かすことで、自分の得意な動きや苦手な動き、力が入りやすい場所が少しずつ見えてきます。

動きの質は、良い方法を知った瞬間に完成するものではありません。実践と振り返りを繰り返す中で、少しずつ育っていくものです。

質は、量の反対にあるものではありません。

丁寧な1回を、必要な回数だけ重ねていく。

質は、その繰り返しの中で育っていきます。

AXIS PILATES & Conditioningでは、完成した形だけで動きを判断するのではなく、実際に動いたときの呼吸や力み、左右差などを確認しながら、一人ひとりに合わせて動く範囲や方法を調整しています。

自分では気づきにくい身体の使い方を見直したい方は、まず現在の姿勢や動きを確認するところから始めてみてください。

レッスンについては、「レッスン内容」「メニュー・料金表」からご確認いただけます。

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