ピラティスのマーメイドを行うとき、上げた腕をできるだけ遠くへ伸ばそうとする方は少なくありません。
手が遠くまで届けば、それだけ身体もよく伸びているように感じます。しかし、腕を遠くへ運ぶことと、身体に伸びが生まれることは、必ずしも同じではありません。
腕を伸ばすことを優先すると、肩や首に力が入ったり、骨盤が横へ流れたりすることがあります。また、横へ動いているつもりでも、背中が丸まり、身体が斜め前へ向かっている場合もあります。
マーメイドの動きは、身体を横へ動かしてから始まるのではありません。腕を上げる時点から、肩や首、背骨、骨盤のつながりが表れています。
身体の一方が伸びるとき、反対側では動きをつくり、支える働きが必要です。伸ばされている側だけでなく、身体の両側がどのように働いているかを見ることも大切です。
この記事では、マーメイドで遠くへ伸ばしているつもりでも身体の伸びを感じにくい理由を、腕・背骨・骨盤のつながりから少しずつ見ていきます。
マーメイドは、遠くへ手を伸ばすだけの動きではない
マーメイドでは、上げた腕を横へ伸ばしながら背骨を側屈させます。しかし、肩だけを押し出したり、骨盤を横へずらしたり、身体を斜め前へ向けたりしても、手の位置は遠くなります。
そのため、手がどこまで届いたかだけでは、身体がどのように伸びているかは分かりません。伸びる感覚が強いほど、滑らかに側屈できているとも限りません。

意識したいのは、骨盤から頭のてっぺんまでの長さを保ちながら、背骨全体で緩やかなカーブを描くことです。身体を遠くへ運ぶのではなく、長さを保った結果として手が遠くへ伸びていく状態を目指します。
大きく動くことを優先する必要はありません。骨盤や肩の位置が大きく崩れず、呼吸を続けられる範囲から始めることで、身体のどこが動き、どこに力が集まっているのかを感じやすくなります。
そして、この身体のつながりは、横へ動き始めてから急につくられるものではありません。実際には、腕を上げる時点からマーメイドの動きは始まっています。
マーメイドは、腕を上げる時点から始まっている
マーメイドというと、身体を横へ動かす場面に意識が向きやすくなります。しかし、その前に行う腕の上げ方にも、身体の使い方が表れます。

腕を上げるときには、肩関節だけでなく肩甲骨も動きます。その動きがうまくつながらないと、肩をすくめたり、首を横へ傾けたりして、腕の位置を高くしようとすることがあります。
また、腕を上げることを優先するあまり、肋骨が前へ押し出されたり、腰を反らしたりする場合もあります。その状態から側屈を始めると、肋骨を前へ出す、腰を反らすといった動きが続き、背骨全体の側屈を感じにくくなることがあります。
大切なのは、腕を頭の真上まで無理に上げることではありません。肩や首に過度な力が入らず、骨盤から頭までの長さを保てる位置で腕を上げます。必要であれば、腕を少し斜め前にしても構いません。
腕が上がった時点で、肩をすくめる力が強くなっていないか、首を自由に動かせるか、呼吸を続けられるかを確認してみましょう。
その準備ができてから側屈へ移ることで、腕だけを遠くへ運ぶのではなく、身体全体のつながりを感じやすくなります。
反対に、腕を上げた姿勢を保つことが難しいまま横へ動こうとすると、身体が前へ向き、猫背のように丸まることがあります。
側屈しようとすると、猫背のように丸まってしまう
マーメイドで身体を横へ動かそうとしたとき、上半身が斜め前へ向き、背中が猫背のように丸まることがあります。
正面から見ると大きく動いているようでも、実際には側屈だけでなく、身体を前へ丸める屈曲が強く加わっている状態です。上げた腕も身体の横ではなく、前方へ伸びていきます。

背骨の動きは、屈曲・伸展・側屈・回旋のどれか一つだけで行われるものではありません。そのため、側屈に屈曲が加わること自体が、すぐに悪いというわけではありません。
ただし、側屈を感じることが目的であるにもかかわらず、毎回大きく前へ丸まってしまう場合は、普段使いやすい屈曲の動きが強く表れている可能性があります。腕を遠くへ伸ばそうとするほど、肩や背中も一緒に前へ向かいやすくなります。
この場合は、身体を深く横へ動かすことよりも、胸と骨盤の向きが大きくずれない範囲で動いてみましょう。胸を無理に正面へ向ける必要はありませんが、自分が真横ではなく斜め前へ動いていないかを確認します。
腕を少し斜め前にしたり、動く範囲を小さくしたりすることも一つの方法です。伸びている側の坐骨から指先までの長さを保ちながら、背骨が少しずつ横へカーブしていく感覚を探します。
それでも手を遠くへ伸ばそうとすると、今度は上半身だけでなく、土台となる骨盤まで横へ流れてしまうことがあります。
手を遠くへ伸ばそうとすると、骨盤まで流れてしまう
マーメイドで手を遠くへ伸ばそうとすると、上半身の動きに合わせて骨盤も横へずれることがあります。片側の坐骨が浮いたり、座っている位置そのものが変わったりするパターンです。
リフォーマーでは、支えている手でフットバーを強く押し、キャリッジを遠くへ動かそうとすると、骨盤も一緒に移動しやすくなります。その結果、バー側の坐骨を支点に反対側の坐骨が浮き、身体全体がバーの方向へ傾くことがあります。
骨盤が移動すれば、手はさらに遠くへ届きます。しかし、上半身と骨盤が一緒に動いているため、見た目の移動量ほど、背骨に側屈が生まれていない場合があります。

バー側の坐骨を支点に反対側の坐骨が浮き、上半身と骨盤が一緒に傾くことがあります。
骨盤は、背骨の動きを支える土台です。土台がどのような状態にあるかによって、その上にある腰椎や胸椎の動き方も変わります。
ただし、マーメイドにはさまざまな方法があり、骨盤が動くこと自体を間違いとする必要はありません。骨盤の動きを取り入れる方法もあります。大切なのは、意図して動かしているのか、手を遠くへ伸ばそうとした結果として流れているのかを見分けることです。
動き始める前に、左右の坐骨へどのように体重がかかっているかを確認してみましょう。側屈するにつれて体重のかかり方がどう変わるか、骨盤がいつ動き始めるかを感じます。
骨盤が早い段階で流れてしまう場合は、上の手を伸ばす距離だけでなく、フットバーを押す力やキャリッジの移動量も小さくします。骨盤を強くキャリッジへ押しつけるのではなく、左右の坐骨と座面のつながりを保ちながら、背骨に少しずつ側屈が生まれる範囲を探します。
骨盤という土台が保たれると、身体の一方が伸びるだけでなく、反対側がどのように働いているかも感じやすくなります。
伸ばされる側だけでなく、反対側も働いている
マーメイドでは、上にある腕の側へ意識が向きやすくなります。脇腹から指先まで伸びる感覚が分かりやすいため、伸ばされている側だけを意識してしまいがちです。
背骨が側屈すると、身体の一方では肋骨と骨盤の距離が長くなり、反対側ではその距離が短くなります。ここでいう「短くなる」とは、身体を強く押し潰すことではありません。
距離が短くなる側では、側屈する動きをつくり、その位置を支える働きが必要です。一方が伸ばされるだけではなく、反対側も働くことで、背骨のカーブをコントロールできます。
伸びる側ばかりを遠くへ引っ張ろうとすると、腕や肩の力が強くなったり、短くなる側が急に潰れたりすることがあります。見た目には大きく側屈していても、背骨全体で滑らかなカーブをつくれているとは限りません。
まずは、左右の脇腹をともに長くした状態から動き始めます。その長さをできるだけ保ちながら、一方は少しずつ伸び、反対側は動きを支えながら短くなっていく感覚を探します。
深く曲がることよりも、身体の両側がそれぞれどのように働いているかを感じることが大切です。伸びている側だけでなく、短くなる側にも余裕があると、肩や首へ必要以上に力を集めずに動きやすくなります。
肩や首に力を集めずに動く
マーメイドでは、上げている腕側の肩だけでなく、反対の手で身体を支える側の肩にも力が入りやすくなります。
上の腕を遠くへ伸ばそうとすると、肩が耳へ近づき、首の片側が詰まることがあります。反対に、支えている手へ体重を預けすぎると、支えている肩の上へ身体が沈み込み、こちら側でも首が短くなりやすくなります。

反対側の肩にも身体が沈み込みます。どちらも首の周りに力が集まりやすい状態です。
肩が耳へ近づかないように、強く下へ押し下げればよいわけではありません。腕の動きに合わせて肩甲骨も動くため、肩を固定しすぎると、かえって腕や背骨が動きにくくなることがあります。
意識したいのは、肩の位置を決めることよりも、首の周りに動ける余裕を残しておくことです。鎖骨の周りを広く保ち、上げた腕と支える腕の両方が、身体の動きに合わせて働ける状態を探します。
頭も背骨のカーブから切り離さず、側屈の流れに沿わせます。頭だけを肩へ近づけたり、正面を向こうとして首を反らしたりするのではなく、頭のてっぺんまで続く長いカーブを意識します。
動いている途中でも、肩をすくめずに呼吸ができるか、顎や喉に力が入っていないかを確認してみましょう。首や肩に力が集まる場合は、腕の位置や側屈の範囲を小さくすることで、身体全体のつながりを保ちやすくなります。
肩や首に余裕が生まれると、側屈に伴って肋骨がどのように動き、呼吸が左右へ広がるのかも感じやすくなります。
呼吸を続けながら、肋骨の広がりを感じる
マーメイドで側屈すると、肋骨と骨盤の距離や胸郭の形に左右差が生まれます。身体の長くなる側では距離が広がり、短くなる側では近づきます。
この違いを感じるために役立つのが呼吸です。側屈した姿勢で息を吸い、長くなっている側の肋骨へ意識を向けると、脇腹や背中まで広がる感覚を得やすくなります。
ただし、伸びている側だけに空気を入れようと、無理に大きく息を吸う必要はありません。短くなっている側にも呼吸による動きはあり、左右がそれぞれ異なる状態で呼吸を続けることに意味があります。
手を遠くへ伸ばすことや、姿勢を保つことに集中しすぎると、呼吸が止まる場合があります。これは、現在の動く範囲が大きすぎたり、肩や首に力が集まったりしていることに気づく手がかりの一つです。
側屈した位置で無理なく一度呼吸を行い、肋骨がどこへ広がるかを感じてみましょう。呼吸を続けにくい場合は、少し身体を起こし、余裕のある位置へ戻します。
呼吸によって無理に身体を伸ばすのではなく、現在の身体の状態を確認するために呼吸を使います。そうすることで、手が届く距離だけでは分からない、身体の内側の動きにも目を向けられるようになります。
マーメイドで大切なのは、手の位置より身体のつながり
マーメイドは、手をできるだけ遠くへ伸ばすことや、身体を大きく曲げることだけが目的ではありません。
腕を上げる時点から肩や首の状態を確認し、骨盤という土台の上で、背骨がどのように側屈していくかを感じる動きです。
手を遠くへ伸ばせていても、身体が斜め前へ丸まったり、骨盤が一緒に流れたりしている場合があります。反対に、動く範囲が小さくても、身体の両側がそれぞれ働き、滑らかなカーブを描けていることもあります。
大切なのは、見た目の大きさだけで動きを判断しないことです。伸びる側だけでなく、短くなる側の働きや、支えている腕、肩、首、呼吸にも目を向けてみましょう。
左右で動きやすさや伸びる感覚が異なることもあります。その違いをすぐに良し悪しで判断せず、現在の身体の使い方を知る手がかりとして捉えます。
大阪市住吉区・帝塚山にあるAXIS PILATES & Conditioningでは、決められた形へ無理に身体を合わせるのではなく、その方の姿勢や動きに応じて、腕の位置や動く範囲、補助の方法を調整しています。マーメイドも、どこまで動けるかを競うのではなく、身体のつながりを感じながら丁寧に行っていきます。
※動作中に痛みやしびれが出る場合は、無理に続けず、医療機関などの専門家へご相談ください。

